家に帰ると僕はひとまずシャワーを浴びる。
さすがに疲れが溜まっているようだ。
何とか洗い流したい気分だった。
お腹も減っていたが何か作るほどの気力はない。
冷蔵庫の中を物色し,あったものをとりあえずお腹に入れるとすぐに寝ることにした。
その前にやることだけ終わらしておこうと頼まれていた洗濯物の処理や少しの片付けをしただけですぐに時計の針はてっぺんを越えようとしていた。
もう限界だと布団に倒れこむ。
疲れたなーと眠りに落ちそうになったその時、
LINE の着信音が鳴る。
一抹の不安を感じながらすぐに確認すると、
妻から「破水なう」の短文が送られてきていた。
「行こうか?」とこちらも短文を返すと、
「そうだね。助けてもらえると助かる。」とすぐに返事が来た。
結局全く眠れないまますぐにベッドを出ると
何か必要なものはないかと確認をした。
いくつか持ってきてほしいと言われていたものをそそくさと用意すると僕はすぐにタクシーを呼んだ。
こんなことなら泊まっておいたらよかったと後悔するも後には立たない。
やってきたタクシーに揺られて30分、ようやくまた産院に着く。
そこは昼間見た時とは違い、あたりは静まり返って入り口の自動ドアも固く閉ざされていた。
僕は夜間用のインターホン押して丁寧に名前を告げてみる。すると夜勤の看護婦さんの返答があった後、自動ドアがひとりでに開いた 。
こんなところまでハイテクだなとひとしきり感心すると静かに妻の居る個室へと向かう。
ドアを開けると照明の落ちた部屋で妻が一人戦っていた。
「あぁぁぁううぅぅぅぅぅぅっ、うぁぁぁっくぁああうぅぅ」
悲痛な声を上げる妻は、明らかに昼間の痛がり方とは一線を画している。
昼間妻がおふくろに陣痛のことを聞いた時に叫びたくなるぐらい痛くなるよと言っていたのを思い出す。
これからが本番だったんだなと脳内で再確認する。
しかしながら痛いのは僕ではない 。できることのない僕はとりあえずこっそりと記録動画を撮った。 苦しんでいる妻を撮影すれば文句を言われることぐらいは察しがついていたのでこっそりと撮った次第である。
一応手伝いに来たつもりなのだが結局昼間と同様あまり僕にできることはなくおろおろするばかりである。
何かできることはないかと考え、頼まれて持ってきたストロー付きのプラスチックグラスに水を注いで飲ませてあげる。
そしてまた腰をさすってあげることにした。
さすってあげるだけでも少しは気が紛れるようだったからだ。
破水したのですぐに生まれるのかと思っていたがこれまた素人の浅知恵。
まだまだ陣痛は続くようだ。
それからも昼間と同じように定期的に助産師さんが様子を見て測定をしていく。
昼間とあまり変わらない光景だが違っているのは妻が声を出して必死に痛みに耐える様子だ。
男の人は陣痛の痛みには耐えられず死んでしまうなんて話も聞いたことがあるが妻には申し訳ないがつくづく男でよかったなと思う。
女の人全員を敵に回してしまうかもしれないが死ぬような痛みは経験したくないというのが本音だ。誰だって痛いのは嫌である。
そういう意味では正直女の人のことは尊敬する。
自分のおなかの中で子供を大きく育てて死ぬような痛みに耐えて出産す
るのだから頭が下がるばかりだ。
昼間と変わり妻からの要求で1点変わった点があった。痛みの波が来た時にお尻の穴を押さえるように頼まれたことである 。
我々男性には想像もつかないがどうもお尻から全てが出てきてしまうような感覚がするらしく押さえてもらうと痛みも楽になるようである。
普段だったら至極滑稽な真似をしているのだが声を出して痛みに耐えている妻の前では、【ちょっと面白いなこれ・・】などと思っていることはおくびにも出せない。
神妙な面持ちでお尻の穴を押さえる僕がいた。
それでも産まれる気配はなく時間だけが過ぎていきようやく3時を回ったころついに分娩室へと案内された。
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出産ってこんなにも感動的なの!?全国のパパさんは絶対立ち会うべき!!自伝パート3